南柯について

 

    主幹 和田 桃                            

 
南柯(なんか)は、大正二年設立に始まり、令和までの四つの時代を生きています。その間いろいろなことがありましたが、戦争の時も、その時代の主幹が心を尽くして守ってきました。私は五代目で、初めての女性主幹になっております。「有季定型」と「心に感じたものを詠む」ということを基本にし、時代にあった新しい感覚も柔軟に取り入れていきます。私自身は、指導する立場をとらず、俳句仲間と一緒に句について話をし、皆と同じように研鑽を積んでいます。初めての方には丁寧な添削をし、質問なども承ります。誰でも参加しやすく、親しみやすい句会を心掛けておりますので、気軽にお声をかけてください。


  

桃弧十矢・令和2年6月1日発行               

       

開かれて秘仏は春を思ひだす
 
鑑真の廟くれなゐの春こぼす
 
山峡の風はおほらか鯉のぼり
 
たんぽぽや重低音の牛の息
 
しめやかにこごみ拳をひらきけり
 
春草は尻にやはらか弁当食ふ
 
農道は隅をしめらせ夏に入る
 
早朝の列車芽吹きを弾きけり
 
五月雨や陀羅尼助屋に古る梲
 
---奈良の風景 山の辺の道 内山永久寺跡

  池のみが大寺の名残り柿若葉
 

桃李満門・令和2年6月1日発行 

     
 
  岡本へちま
研ぐ米は触れるや逃げる春の水
 
  浅間二晁
啓蟄や膝おりて聴く土の声
 
     宮成乃ノ葉
掃き寄せて根元ととのふ落椿
 
  宮本こぼ
薪能半身は闇の中に置く
 
  笹野紀美
朝刊も取らず草刈女とならん
 
  上窪泰干
豆飯の蓋が開くなり卓集ふ
 
  水上呑
令和二年この四月ほど永かりき
 
  山崎たか
焼き杉のひとつを拾ふ修二会かな
 
 
   

桃弧十矢・令和2年3月25日発行               

       
 
まつさきに春がきているおばんざい
 
春空にのんど引き上げ鶏鳴けり
 
梅誉めて部屋に上がりぬ鳴雪忌
 
一周のマニ車から春の風
 
春雨や枯草色の野を洗ふ
 
荷車の幅の旧道菫咲く
 
献血のあとの身軽さ春一番
 
病人に夜半の検温春浅し
 
---奈良の風景 竹送り お水取り

均等のふしに春光竹送り  
 
角にきて炎まさりぬ修二会かな
 

 

桃李満門・令和2年3月25日発行 

     
 
  宮本こぼ
風花をかきまぜている太極拳
 
  椿本晨起朗
見つめ合ふことなき女雛男雛かな
 
  内田康子
老女とて一家の家長福寿草
 
  岡本へちま
春の水掛けて如来は瑠璃の肌
 
  富野香衣
消灯の病室を訪ふ雪女郎
 
  山崎 直
猪の堀り起こしたる土に春
 
  加藤悦男
白魚漁遠くに富士のありて良し
 
  坊 ふみ
てのひらの種を啄む花鳥よ 
 
   

    桃弧十矢 ・令和元年1月25日発行               

       
 
  洞窟のふところにある冬の滝
 
  鉄刻む第二工場冬の雨
 
  吟行のポケットに揉む紙懐炉
 
  村人の賀状を運ぶ路線バス
 
  瞼まで朝日まぶしき白障子
 
  籠の鳥の長生きを褒めお元日
 
  年越しの蕎麦屋に褪せし漫画本
 
  落雁の亀は桃色今朝の春
 
  禅僧に沢庵ひと切れの作法   
  ---奈良の風景(福智院 麺喰)---

  冬ぬくし床を揺るがす饂飩打ち  

    桃李満門 ・令和2年1月25日発行 

     
 
  調律の仕上げにクリスマスソング
  佐藤 双楽
 
  アキーゴのあおぞら冬の高笑い
  藤澤 廣城
 
  草の花父訥訥と疎開の恋
  川村 悦哉

  全身の非常ベル鳴る湯冷めかな
  浅間 二晁
 
  朝練の声立ちのぼる冬の空
  野見 香織
 
  誕生日を以て終りし古暦
  上窪 泰干
 
  特急も急行もない菊の駅
  菅原 一晃
 
  加わりて話聞くなり日向ぼこ
  水野 顕
 
  
 

    桃弧十矢 令和元年11月25日発行               

       
 
  山柿や古墳削がれゆく月日
 
  秋蝶や三百年の椎を訪ふ
 
  松脂の傷なめらかに閉ざす秋
 
  旅先の楓をはさみ句帳閉づ
 
  雪吊の先端松を貫ける
 
  女湯の淡き灯暮の秋
 
  鎖場を進む一列紅葉狩
 
  ガリ版の南柯に深き秋の色
 
  新涼の廊下づたいに書道展
  ---奈良の風景(安堵町重要文化財 中家)---

  竹林を潜りさやけし持仏堂  

    桃李満門  令和元年11月25日発行 

     
 
  かなかなかな山に漣生まれけり
  椿本 格三
 
  秋扇たためば母の膝うすし
  笹野 紀実
 
  人とゐて人遠ざける秋日傘
  富野 香衣
 
  黙祷の項を焦がす残暑かな
  川村 悦哉
 
  刈田みなすっきりと村男前
  喜多 未醒
 
  掌で掬ふ秋思や観世音
  水上 呑
 
  秋暑し墓場は広き関ヶ原
  中野 花山
 
  隣席の樟脳匂ふコートかな
  松井 松子
 

    桃弧十矢 令和元年9月25日発行               

       
 
  虚子の句碑訪ふ道涼し比叡山
 
  涼風になる豆腐屋の流し水
 
  黒衣に真珠の淡き晩夏かな
 
  風入れて深き二度寝や今朝の秋
 
  秋風や一尺弱の猫の露地
 
  占ひの席一坪の残暑かな
 
  窓ひとつ閉めて晩夏の夜の句会
 
  寺ごとに墓をかかえて残暑かな
 
  病人の爪柔らかく秋に入る

  ---奈良の風景(若草山山頂)---

  秋澄むや山頂に出て人の声
 

    桃李満門  令和元年年9月25日発行 

     
 
  風鈴とふうりんの影なりゆれる
  宮成 乃ノ葉
 
  蛍飛ぶ闇に起伏のあるごとく
  浅間 二晁
 
  石投げて水輝かす晩夏かな
  安藤 町彦
 
  原爆忌のある国に住む憂ひかな
  富野 香衣
 
  赤ちゃんをさっと湯通し夏の宵
  宮本 こぼ
 
  秋微雨机の上の荒野かな
  水上 呑
 
  今宵また守宮のために灯を灯す
  正岡 祐子
 
  ナウスコール命の綱と笑ふ夏
  平田 幸子


    桃弧十矢   令和元年年7月25日発行               

       
 
  栗色に廊下磨かれ梅雨に入る
 
  蟻這ふや名所巡りの案内図
 
  牧牛に食べ放題の夏の草
 
  蛍火のひとつを追へばまたひとつ
 
  緑陰に似顔絵描きが来て座る
 
  海岸の虹のひと色風に消ゆ
 
  放牧の牛の火照りに青時雨
 
  風ぬけて茅の輪の小麦色深む
 
  御朱印の列に浴衣の夜会巻き

  
奈良の風景(元興寺前の小川又兵衛酒店

 
  角打ちの隅に蚊遣の夕まぐれ 

    桃李満門  令和元年年7月25日発行 

     
 
  父の日や母より淡く父の居て
  安藤 町彦
 
  鋏入る毎に香ばし青葉かな
  田中 保夫
 
  ソーダ水ト音記号に飲まれけり
  山崎 直
 
  敦煌の水に茂れる青葉かな
  加藤 悦男
 
  曳く蟻と悶える虫と押す蟻と
  岡本 へちま
 
  墓石の角で身を折る蜥蜴かな
  笹野 紀美
 
  万緑や風の通らぬ座禅堂
  内田 康子
 
  青嵐外れ馬券を巻き上げて
  絹山 たかし
 
 

    桃弧十矢   令和元年年5月25日発行               

       
 
  お茶席をすりぬけてゆく春の蝶
 
  風船のその後知らず空青し
 
  芹残し仕舞ひ支度の朝の市
 
  葉桜の日陰に寺の何もかも
 
  遥拝所一寸先の若葉かな
 
  つかまるも座るも丸太青葉山
 
  田水引く水路に太き水の音
 
  母よ母けふの声きく青嵐
 
  飯を売る母のなりはひ遠花火

  ---奈良の風景(春日原生林)---
 
 
  一樹二樹抱き込む山藤の盛り 

    桃李満門  令和元年年5月25日発行 

     
 
  郵便バイク乗り越えてゆく春の泥
  宮本こぼ
 
  絵馬と絵馬かさなり当たる春の風
  宮成乃ノ葉
 
  山笑ふ水量のある水彩画
  富野香衣
 
  沈丁や母のお下がり着て歩く 
  松井松子
 
  白杖の刻む二拍子春の風
  川村悦哉
 
  師を偲び花びらが飛ぶ夜明けかな
  難波英子
 
  風が櫓に流れは櫂に花筏
  椿本格三
 
  洋館や乳白色の春灯
  野見香織
 
           

    桃弧十矢  平成31年3月25日発行                 

       
 
  多羅葉の一文字浸す寒の水
 
  品書きのはじめ香らす蕗の薹
 
  春隣木箱に閉ざす赤ワイン
 
  水掛不動苔やわらかく春に入る
 
  思い立ち身軽な遠出春ショール
 
  花売り場ひろげストアの彼岸入り
 
  吟行の下見に拾ふ春の色
 
  開かれし芳名帳に春日影
 
  燈台の沖へ出たがる灯や朧

  ---奈良の風景(田原の春)---
 
  里山に春来て水の集まれり




    桃李満門  平成31年3月25日発行

     
 
  水温む投げ銭光る五十鈴川
  松岡 出
 
  ぶらんこの二つに二つある窪み
  椿本格三
 
  群れて木に遅れて一羽寒雀
  岡本へちま
 
  グーグルの導く道や小雪舞ふ 
  野見香織
 
  囲碁盤に白の一手や初御空
  浅間二晁
 
  ドアノブに差し入れ届く風邪の朝
  松井松子
 
  皮蚤の琥珀色して雨水かな
  正岡祐子
 
  ダンボール重ねし軒の冴え返る
  佐藤望恵